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福井地方裁判所 昭和33年(行)3号 判決

原告 藤田善之栄 外五名

被告 福井県知事

訴訟代理人 林倫正 外六名

主文

被告が、原告藤田善之栄に対し別紙第一目録記載(1)(2)(5)(6)の各土地につき、原告毛利秀一に対し別紙第二目録記載の各土地につき、原告関梅松に対し別紙第三目録記載(1)乃至(4)及び(7)の各土地につき、原告中島今和に対し別紙第四目録記載の各土地につき、原告峰田七之助に対し別紙第五目録記載の各土地につき、原告菊地厚に対し別紙第六目録記載(2)(3)の各土地につき、昭和三二年三月一五日付で為した買収処分を各取消す。

原告毛利秀一中島今和、峰田七之助を除くその余の各原告につき、各その余の請求を棄却する。

訴訟費用は三分し、その二を被告の負担とし、その余を原告等の連帯負担とする。

事実

原告等訴訟代理人は「被告が、原告藤田善之栄(以下原告藤田と略称する)に対し別紙第一目録記載の各土地につき、原告毛利秀一(以下原告毛利と略称する)に対し別紙第二目録記載の各土地につき、原告関梅松(以下原告関と略称する)に対し別紙第三目録記載の各土地につき、原告中島今和(以下原告中島と略称する)に対し別紙第四目録記載の各土地につき、原告峰田七之助(以下原告峰田と略称する)に対し別紙第五目録記載の各土地につき、原告菊地厚(以下原告菊地と略称する)に対し別紙第六目録記載の各土地につき、昭和三二年三月一五日付で為した買収処分を各取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求原因として、

(一)  別紙第一目録乃至第六目録記載の各土地は、元鯖江陸軍練兵場の一部であつたが、終戦後所管換により開拓財産(所管庁福井県知事)となり、原告藤田は別紙第一目録記載の各土地を、原告毛利は別紙第二目録記載の各土地を、原告関は別紙第三目録記載の各土地を、原告中島は別紙第四目録記載の各土地を、原告峰田は別紙第五目録記載の各土地を、原告菊地は別紙第六目録記載の各土地を、別紙第一目録記載(4)の土地は宅地として、その余の各土地はいずれも農地として利用すべく用途指定の上、昭和二五年二月一日被告から売渡を受け、以来今日迄右各土地の開墾に従事して来たものである。

(二)  ところで、かような土地については被告に於て農地法第七一条、第七二条の定めるところに従い売渡後五年内に各土地が売渡時の指定用途である農地(但し第一目録記載の(4)の土地は宅地)として利用すべき土地についてはその開墾が完了されているかどうかを検査し(以下成功検査と云う)、成功検査の結果指定の用途に供されていなかつたり開墾が完了していない場合には、国に於て該土地を買収し得るのであるが、被告は昭和三一年四月初頃右検査を為し、別紙第一目録乃至第六目録記載の各土地につき別表利用状況書記載の如き認定を為し、右各土地を昭和三二年三月一五日付で買収した。

(三)  しかし乍ら右各土地の買収は左記理由により違法であるから取消さるべきである。即ち

(1)  被告が成功検査を為すに際し立入調査を為す場合には、農地法第八二条第一項、第三項により、原告等に対し予めその旨の通知を為し、検査には現実に原告等を立会わせるべきであるにも拘らず、本件検査は原告等に通知されることなく、原告等をして立会の機会を失わしめ、原告等が全く不知の間に敢行されたものであつて、この瑕疵のある手続に基いて為された本件検査は違法であり、本件各買収は右の違法を承継したものであるから取消を免れない。

(2)  仮りに右の理由が認められないとしても、

(イ)  原告藤田の売渡を受けた土地は合計一町二反三畝二二歩であるが、その内検査時に於ける別紙第一目録記載の各土地に関する利用状況は別表記載の通りであり同人の開墾率は同人が売渡を受けた全面積(以下全体と云う)の約八五パーセントであつたからこれと異る被告の前記認定はいずれも同人の過失に基く誤認である。

仮にそうでないとしても農地法第七二条に基く買収は、その条文からして任意的なものであるから、例え売渡された土地の開墾が全部完了していなくても、そのことにつき宥恕すべき特別事情が存する場合には当然これを参酌して買収を為さないことが法の目的に副うものと考えられるところ、原告藤田は他の入植者より約三年も遅れ昭和二三年一〇月末入植し爾来開墾に努めて来たが、昭和二九年三月妻が結核となつた為、昭和二九年度及昭和三〇年度は専らその看護に忙殺されたて開墾に主力を注ぐことが出来なかつたので、その頃その事情と昭和三二年末迄には開墾を完了する計画である旨を県の開拓課宛届け出ておつたにも包らず、被告は右の事情を少しも参酌せず本件買収を敢行したものである。よつて右処分は著しく妥当を欠き違法のそしりを免れないから、取消さるべきである。

(ロ)  原告毛利の売渡を受けた土地は合計一町二反歩であるが、その内別表記載の通り別紙第二目録記載の各土地を検査時にすべて開墾し終えていたにかゝわらず、右各土地をすべて未墾地と認定した被告の前記認定は誤りであるから右土地に対する被告の買収処分は違法であつて取消を免れない。

(ハ)  原告関の売渡を受けた土地は合計一町一反九畝一八歩であるが、その内別紙第三目録記載の各土地の検査時に於ける利用状況は別表記載の通りであり、開墾率は全体の約七五パーセントであつたから、これと異る被告の前記認定は誤りであるのみならず、原告関が開墾を完了し得なかつたのは同人が神経痛にかゝり整地及び除草が遅れた為であるが、本件買収にはかゝる特別事情が少しも参酌されていないから、前記(イ)と同じ理由により右各土地に対する買収は違法であつて取消さるべきである。

(ニ)  原告中島の売渡を受けた土地は合計一町一反八畝三歩であるがその内別紙第四目録記載の各土地の検査時に於ける利用状況は別表記載の通りであり、その開墾率は全体の八七パーセントであつたから、これと異る被告の前記認定は誤りである上、別紙第四目録の土地は、他の土地に比し極めて地質が悪く((1)の土地には大小四個の塹壕跡が残り、(2)(3)の土地は極めて酸性が強く収穫不能であつた)開墾は非常に困難であつたのに、本件買収にはかゝる事情が参酌されていないから、前記(イ)と同じ理由により右買収処分は違法で取消を免れない。

(ホ)  原告峰田の売渡を受けた土地は合計一町二反一畝二二歩であるが、その内別紙第五目録記載の各土地に関する検査時に於ける利用状況は別表記載の通りであり同人の開墾率は全体の七九パーセントであつたから、これと異る被告の前記認定は誤りであるのみならず、同人は売渡地が地割される前から入植していたので自己が開墾した土地で他人に割当てられた土地が存する上、検査の頃腰を痛めていたので十分働けなかつたのであるが、被告は本件買収処分を為すに際し、かゝる事情を少しも参酌していない。よつて右処分は前記(イ)と同理由により違法であつて取消を免れない。

(ヘ)  原告菊地の売渡を受けた土地は合計一町二反一畝二〇歩であるが、その内別紙第六目録記載の各土地に関する検査時に於ける利用状況は別表記載の通りであるから、右と異る被告の前記認定はいずれも誤りであるのみならず、(3)の土地は傾斜がひどく雑木雑草が生い茂り、且つ湿地であつて開墾には不適地であるから結局原告菊地の開墾率は全体の七九パーセントであるが、開墾が遅れたのはびわ山二六番乃至二八番及び一九番、二一番、二二番にかけて存した旧軍隊自動車練習道路の部分の開墾に予想外の労力と時間をとられたことと、右各土地上に国道第八号線が新設されるに及んで、その境界周辺の整地に日時をかけなければならなかつたからであるが、本件買収処分に際し右の如き事情を少しも参酌しなかつたから前記(イ)と同じ理由により違法であるから取消さるべきである。

と述べた。

(証拠省略)

被告訴訟代理人は「原告等の各請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求め、答弁として「請求原因(一)、(二)の事実は認めるが(三)の事実はすべて否認する。すなわち、

(一)  被告は本件土地を農地法第七一条、七二条により買収したものであるが、本件検査を為すに当り、昭和三一年三月二四日付で原告等の属する中央開拓農業協同組合を通じて原告等に対し同年三月二九日、三〇日、四月四日、五日の四日間に亘つて成功検査を実施する旨及び当日原告等の立会を求める旨の通知を為したから、右通知は当然原告等に達している。のみならず被告は念のため検査の前日に行つた原告等の家族関係調査の席上、調査担当者から直接原告等に右と同旨事項を口頭で通知した。

(二)  仮りに右の事実が認められないとしても、検査の通知は、農地法第八二条の立入調査に当り被検査者の立会を促し、これにより該土地の占有権、所有権が侵害されることを防止し、右侵害に基く損失補償に伴う紛争を未然に防止する為のものに過ぎないから、右通知を欠いても本件買収処分そのものの効力は左右されない。

(三)  なお、検査結果に基き、買収を為すか否かは、当該行政庁の自由裁量に委ねられるところであるから、たとえその判断に若千事実と異るところがあつたとしても、これを以て直ちに当該行政処分が違法であるとは云えない。

と述べた。

(証拠省略)

理由

(一)  別紙第一目録乃至第六目録記載の各土地は、元鯖江陸軍練兵場の一部であつたが、終戦後所管換により開拓財産(所管庁、福井県知事)となり、昭和二五年二月一日、原告等の主張の如く各原告等に売渡されたこと、被告は昭和三一年四月初頃、右各土地について農地法第七一条に基く検査を行い、右各土地の中別紙第一目録記載(4)の土地は宅地としての指定の用途に供されておらず、その余の各土地はいずれも全部又はその大部が開墾未了であることを理由として、昭和三二年三月一五日、同法第七二条に基く買収を為したことは各当事者間に争がない。

そして証人藤田ひさ子、毛利きく江、峰田マキノ、関うめ、中島政子、菊地加弥、小形久之の各証言、証人小形の証言により真正に成立したと認められる乙第一号証の一、二によれば、被告は右検査を為すに当り、原告等の属する中央開拓農業協同組合長に宛て、各開拓農民に対し検査が行われる旨を示達願いたいとの通知を発したのであるが、右通知は、各原告等には示達されず、又その余の方法によつても原告等にはその旨の通知が為されなかつたこと、検査は原告等が不知の間に原告等の土地に立入つて行われたが、その際、原告等は立会つて弁解を為す機会を与えられなかつたことが認められ、証人小形久之、佐藤甚十郎、石田敬祐の証言中右認定に反する部分はにわかに措信し難く、外に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(二)  ところで、本件買収は農地法第七一条、第七二条によるものであることは当事者間に争がないが、右第七一条による検査については事前に原告等に対する通知を要する(同法第八二条第一項第三項参照)立入調査の方法によることを必要とするものとは解されず、進んで立入調査した場合においても、調査前に原告等に対して為すことを要する通知は、これにより原告等に調査に立会し意見を述べる機会を与え以て立入調査について生ずることあるべき損害の補償の徒な紛争を防止することを目的とするものと解されるから、原告等の(三)の(1)の主張は理由がなく到底採用し難い。

よつて次に原告等の主張する右理由以外の(三)の(2)の理由について判断する。先ず検査時における本件各土地の利用状況についてみるに、被告のこの点についての主張は別紙土地利用状況書記載のとおりであるが、

(イ)  別紙第一目録記載の各土地(原告藤田関係)について、

証人藤田ひさ子、竹田鐘吉の各証言並に原告藤田本人尋問の結果及び検証の結果によれば、原告藤田は検査時に(1)(2)の土地の約三分の二の面積を開墾し、残余の部分は未墾であつたこと、(6)の土地全部は開墾を完了していたことが認められ、証人藤田ひさ子、竹田鐘吉の証言中右認定に反する部分は措信し難く、外に右認定を覆えすに足りる証拠はない。そして(4)の土地が宅地として売渡されたことは当事者間に争がなく、右土地を宅地として利用するため整地等の適当な処置を行つていなかつたことは、原告藤田の明かに争わないところであり、(3)の土地の全部及び(5)の土地の中の七畝歩が検査時に未墾であつたことは弁論の全趣旨により認められ、前記証拠によれば(5)の土地の中、一畝一二歩は検査時開墾を完了していたことが認められる。そして右開墾面積を合計すると開墾率は全体の約七三パーセントである。

(ロ)  別紙第二目録記載の各土地(原告毛利関係)について、

証人山下友一、毛利菊松の各証言、証人山下友一の証言によつて真正に成立したと認められる甲第二号証、原告毛利本人尋問の結果及び検証の結果によれば、(1)(2)(3)の各土地は検査時に於ていずれも開墾を完了されていたことが認められ、証人小形久之の証言により真正に成立したと認められる乙第三号証の二、三、の中右認定に反する部分はいずれも措信し難く外に右認定をくつがえすに足る証拠はない。してみれば同人の開墾率は一〇〇パーセントである。

(ハ)  別紙第三目録記載の各土地(原告関関係)について、

(1)の土地の中三畝一五歩(2)の土地の中五畝、(3)の土地の中五畝(4)の土地の中三畝一〇歩、(5)の土地及び(6)の土地の全部が検査時に未墾であつたこと、及び(2)の土地の中二畝、(3)の土地の中四畝、(4)の土地の中三畝が検査時開墾済であつたことは当事者間に争がない。ところで証人関うめ、笠島仁左ヱ門、山森鶴治の各証言、原告関本人尋問及び検証の結果によれば、原告関が検査時に開墾を了していた土地の面積は当事者間に争のない右の面積よりはるかに広いことが認められるけれども、果してそれが如何程であつたのかを確定し得る証拠がない。又右各証拠によれば(7)の土地の中約四、五歩には訴外酒井秀茂の所有する小屋が存し、又原告関は水田にする為約六歩位の穴を堀つたことがわかるのであるが、右各部分を除く面積は検査時に開墾を了していたことが認められ、証人小形久之の証言により真正に成立したと認められる乙第四号証の二、三の中右各認定に反する部分はにわかに措信し難く外に右認定をくつがえすに足る証拠はない。

してみれば原告関の検査時に於ける開墾率は全体の四六、二パーセントをはるかに越えることは明きらかである。

(ニ)  別紙第四目録記載の各土地(原告中島関係)について、

(1)の土地の中六畝二〇歩、(2)(3)の各土地の中、各約一畝が検査時に未墾であつたことは当事者間に争がないが、証人山下友一、重永重吉、青井弥之助の各証言、原告中島本人尋問の結果及び検証の結果によれば(1)の土地にはその両側及び中央附近に塹壕の跡と思われる穴が数個存し、一帯に土地の凸凹は甚だしく、又酸性土壤である為開墾には不適であると考えるを相当とするが、原告中島はこれを水田にする為昭和三〇年秋頃塹壕跡の埋立に着手したが後に畑地として売渡を受けた土地を水田に用途替するには県の許可を要する旨を知つたので再び畑地にすべく努力したが検査時迄に完成するに至らなかつたこと、(2)の土地の中その北隅に他人が採土した穴のある部分を除く残部、及び(3)の土地の残部は殆んど全部検査時に開墾を了していたこと、検査時において(1)の土地の北方に瓦土が積んであつたので、被告は原告が他に売却する為(1)(2)の土地からこれを採土したものと誤認したこと、を認めることができ、証人小形久之の証言により真正に成立したと認められる乙第五号証の二、三の中右認定に反する部分はにわかに措信し難く外に右認定をくつがえすに足る証拠はない。してみれば原告中島の検査時に於ける開墾率は全体の八三パーセントである。

(ホ)  別紙第五目録記載の各土地(原告峰田関係)について

(1)の土地の中二畝、(4)の土地の中六畝二〇歩は検査時に未墾であり、(1)の土地の中二畝、(4)の土地の中一畝が各検査時に開墾を完了していたことは当事者間に争がない。ところで証人峰田七五郎、峰田清子、中島今和の各証言、原告峰田本人尋問及び検証の結果によれば、(2)(3)の土地の中西方の道沿に約三畝一〇歩ずつは開墾完了していたこと、(4)(5)(6)の土地は、昭和三〇年一一月頃全部荒起を為したが、検査時迄には右各土地の全部にわたり共通して西側道路沿いから東方へ約一〇間位は開墾を完了し残余は開墾完了に至らなかつたことを認めることが出来、証人小形久之の証言によつて真正に成立したと認められる乙第六号証の二、三の中右各認定に反する部分はにわかに措信し難く外に右認定をくつがえすに足る証拠はない。してみれば原告峰田の検査時に於ける開墾率は全体の約六二パーセントである。

(ヘ)  別紙第六目録記載の土地(原告菊地関係)について、

(1)の土地の中六畝一五歩及び(3)の土地の全部が未墾であつたことは当事者間に争がない。ところで証人菊地加弥、円上久吉の各証言及び検証の結果によれば(2)の土地は五〇歩の開墾を完了した外に、北側の一部に昭和三〇年秋頃竹を植えたが、その余の部分及び(1)の土地全部は未墾であつたこと、(3)の土地は所謂びわ山と称する丘陵の南側の相当急な傾斜面に属し、一面に雑木、雑草が生い繁り、しかも湿地帯であつて開墾には不適であると考えるのが相当である。証人小形久之の証言によつて真正に成立したと認められる乙第七号証の二、三の中、右の認定に反する部分はにわかに措信し難く、外に右認定をくつがえすに足る証拠はない。してみれば原告菊地の検査時に於ける開墾率は全体の約七〇パーセントである。

(二)  右の認定に基き被告の行政処分の適否について判断する。

農地法第七二条に基き買戻を為すか否かは行政庁の裁量に委ねられているが、当該行政処分が裁量権の範囲を踰越したり、行政行為に要求される公平且つ平等の原則に反する場合は、かゝる裁量権の行使は違法であつて、該行政処分は取消を免れないと解せられるのであるが、

(イ)  別紙第一目録記載(3)、別紙第二目録記載(1)(2)(3)の各土地は検査時に開墾完了しており、別紙第四目録記載(1)の土地及び別紙第六目録記載(3)の土地は開墾不適地であるから、右のように開墾完了地を未墾地として、右開墾不適地を開墾し得ることを前提として未墾土地として為したこれらの土地に対する本件買収処分には、その対象を誤つた違法があるから、取消さるべきである。

(ロ)  次で別紙第一目録記載(1)(2)(5)、第三目録記載(1)乃至(4)、(7)、第四目録記載(2)(3)、第五目録記載(1)乃至(6)、第六目録記載(2)の各土地について判断するに、証人小杉久之、渡利金策、吉村福三の各証言、原告藤田外五名の本人尋問の結果及び検証の結果を総合すると、本件各土地の所在場所はもと練兵場の一部であつたから、売渡時には著しく荒廃し一面に大小の雑木、雑草が生い茂り、又所々に塹壕跡や小山が点在し地形の変化に富み、従つて開墾は必ずしも容易ではないと推察されるのみならず、一度開墾しても手入を怠れば一年足らずの短期間の中にすゝき熊笹、よし等が密生し、検査時においては開墾したかどうかわからなくなつてしまうことは必定であること、かゝる土地について検査を為す場合に原告等開拓民の立会を求め、原告等の開墾の経過やその成果についてその弁解をきかなければ到底検査の正確を期し難いと思われるのに、検査に於て原告等の立会がなかつたこと、検査は開墾を完了すべき時期の翌年度に当る昭和三一年四月であり当時は当年度の作付が為されていないことは当然で、且つ前年度の収穫後冬期間はそのまゝ放置してあり結局検査は原告等にとつて最も不利な時期に行われたこと、しかも検査に際し係員は、当地区は他の地区より厳格に行うよう上司から指示を受けていたため、係員は、合否の判定基準を厳格に行つたのであるが、検査に費した時間も短く、一筆の土地毎に詳細且つ正確な検討が行われたか否か疑わしいこと、加うるに旧練兵場の一部であり、従つて原告等の前記各土地と性状等にさしたる相異もないと思われる原告等以外の売渡を受けた者の土地について、検査時に開墾を完了していなくても、買収処分に付されないものもあり、一度為された買収処分が後日取消されたところも存し、従つて買収基準について万人を納得せしめるに足る合理的なものが存したかどうか疑を生ぜしめる余地があること、被告は原告等に対し病気その他の理由で開墾が遅れた場合買収を免れる為必要な措置について適切な指導を為さなかつたことが判る。他方原告等は各本人尋問の結果によるといずれも本件各土地を売渡されてからは専ら開墾に努力し、殊に原告藤田は、昭和二九年三月から昭和三〇年末迄妻が肺結核となつた為、原告もその看病に時間をとられ、心ならずも開墾が遅れたこと、原告関は、昭和二七、八年頃から神経痛にかゝつた為開墾が思う通り進まなかつたこと、原告中島の別紙第四目録記載(1)の土地の如きは前述の通りその性状からして開墾は不適と考えられ従つてかゝる土地を他の土地と同一の基準で律することは適切とは考えられないこと、原告菊地が売渡を受けた本件外の土地には旧軍隊自動車練習用道路が存したので開墾に当りその砂利の始末に日時を要し、又右土地上に国道八号線が新設されるに及びその周辺の整理に労力を費やされた為、本件各土地に主力を注げなかつたことの諸事情が認められるのであるが、かゝる諸事情を綜合して考えると、右各土地に対して為された被告の買収処分は、著しく不公平且不平等であつて、違法のそしりを免れず、右各土地に対する買収処分は取消を免れない。

(ハ)  ところで別紙第一目録記載(3)、第三目録記載(5)(6)、第六目録記載(1)の各土地は検査時に全部未墾であり、又別紙第一目録記載(4)の土地は指定の用途に供する為の準備さえも為されていない以上は、当該原告において予め開墾完了時期が指定されていたことを知つていて、しかも相当長年月間の余猶があつたのに検査までにその農地としての肥培管理、耕作の可能な状態にまでに開墾していなかつたのは、何と云つても当該原告の責任であつて右土地に関する限り、当該原告自ら右各土地に関する買収処分を違法としその取消を求めることは許されない。

よつて右認定の範囲内で各原告の請求を認容し、その余の失当として棄却することとし、訴訟費用について民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を適用し、各原告勝訴の部分についての仮執行は適当でないからその旨の宣言をしないこととし主文の通り判決する。

(裁判官 神谷敏夫 可知鴻平 川村フク子)

(別紙目録省略)

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